『己が手にしたものが取るに足らぬ』と知る力 ~トンイ~


2年前になるのですが、あの『チャングム』のイ・ビョンフン監督が演出した『トンイ』を視聴して、とっても印象に残ったセリフがあります。

トンイの父は死体を検視する、いわば李氏朝鮮時代では賤民の身分ながら、父と兄に可愛がられトンイは幸せな生活を送っていました。
トンイ父が頭目として活動していた「コムゲ」という組織が両班と対立し、(逆賊として)父と兄が殺されてしまってからトンイの運命が大きく変わります。

自らを守る為に名を変え、宮廷に入り、持ち前の頭脳と性格の良さ、美貌で王の目に留まり、なんと側室までになるのです。一人目の男の子ははしかで亡くなりますが、二人目の男の子は、トンイの聡明さを受け継ぎ、異母兄を脅かす存在として考えられるようにまでなります。

この『トンイ』の時代、派閥争いが激しく、それぞれが担いだ者を王につかせるために必死。それは命が簡単になくなることも十分にあり得ることでした。
トンイは息子を生かすために、もともとは「王にならない(なれない)男の子は結婚したら宮殿を去る」という決まりを覆すべく策を考えます。
身分は高くないけれど、息子の師となる父を持つ娘との婚約を取り付けます。それには「秘策」がありました。

その師が住むみすぼらしいと思われた屋敷は「長子でないにもかかわらず、王になった男子を二人も出した家」だったのです。なんでも「王気」が満ちている木がある家だった、ということがその「秘策」でした。
その噂を利用して(そこに住めばトンイの息子に「王になる気がある」と知らしめることになる)宮廷に留まることができたのです。そして、聡明な父を持つ、賢く美しい娘と結婚するのです。

その師を説得するときに言ったトンイの言葉が素敵なのです。

奪う力ではなく、分け合う力。
恥じることを知る力。
そして、己が手にしたものが取るに足らぬということを知る力。
そんな真の力を与えたい。
真の力が勝つ世の中、それを夢みて欲しい。
そして夢見るだけでは終わらぬよう(あなたに)見守って欲しい。

『己が手にしたものが取るに足らぬということを知る力』
あの人にも、この人にも伝えたい。

この言葉は、『王』という万人がひれ伏す地位に着いたときに自分を戒める言葉であると思います。
自分のためにすべてをなげうっても自分を守ってくれる人に囲まれたとき、そのpositionはアッと今に崩れ去る砂の楼閣だ、ということを頭に入れる「力」ではないでしょうか。

それは、「善い行い・正しい行い」をすることが自分も含め、周りのものたちの暮らしを守る唯一の方法だという『真理』なのだと思います。