「しょせん幸せなんて自己申告」綾小路きみまろの本


「しょせん幸せなんて自己申告」綾小路きみまろ著(朝日新聞出版)を読みました。とても読みやすい本ですが、綾小路きみまろの半生を考えると、なかなか示唆に富んだ本だと思います。

芸人を目指したのが22歳、「あれから40年」で注目されたのが52歳、30年間の長きにわたり陽の目をみることはなく、いろいろな努力を重ねてきた人なのです。ほんとに、その忍耐力と精神力には驚きます。
たゆまぬ努力に裏付けされた「成功」です。今のスタイルが出来上がったのも、少しずつ、観客の反応を見ながら、その手法を手探りで探っていった結果。

話すことも新聞・本・人との会話、目を配り、耳を澄ませていた結果です。司会業である程度成功したものの、やはり「芸人」として成功したい、という思いから、自分の漫談を録音した「カセット」を高速道路のサービスエリアで無料で配布、という地道で覚悟を決めた営業を続けたのです。

先の見えない暗闇でも、小石を投げ続ければ、やがて立ち上がるための「土台」ができる

いい言葉です。

本の中で語られる、ビートたけしとの再開(番組の企画)の場面では思わず「涙」がこぼれました。感動的です。ビートたけしが実はきみまろの舞台をお忍びで観ていて、「なぜ表に出てこないんだ」と思っていたそうです。やっと表に出てきたことで、「自分の感覚が正しかった」と嬉しかったと話し、なんと綾小路きみまろの手をとって「よくぞ這い上がった。同じ世代を生きた男としてあなたを誇りに思う」と言ったのです。
自分が生き残るのにも大変な「芸能界」でも、「実力のあるものが出てくる場所であって欲しい。そうあるべき」と願うビートたけしの想いにも心打たれます。
あれだけの長きにわたって芸能界という場所で第一線を守ってきた人の懐の深さ、大きさを感じました。

本を読んで一番感じたことは、綾小路きみまろの「メンタルの強さ」。何があっても富士山を見れば全て忘れる、そんな自分自身をいかに保つか、ということを身をもって実践し、自分自身を「枯渇」させない方法を常に探っているのです。
最終的には「メンタルの強さ」と「スキル(技術)」と「スマートさ(頭の良さ)」を持っていた人なのだと思います。

サラリーマン川柳のパクリ事件で、一切弁解せず、「その通り(盗作が)です」という潔い会見の後、「政治家はきみまろを見習え」という記事まで出て、CDがその後、30万枚売り上げを伸ばしたそうです。なんとも示唆に富んだエピソードではないですか?

面白かったです。