ドラマ

「愛の不時着」 ~家父長制への挑戦~



「愛の不時着」は「韓国ドラマ」特有の「家父長制」を持ってこなかった斬新さがあった気がします。
まず、ドラマの冒頭、セリが後継者として父親から指名されたこと、長兄は自分の感情を押さえられない欠陥を持ち、次男は反社会的な人間でもありました。
財閥を率いた「父」が息子たちを見限る、冒頭からの投げかけも斬新だった気がします。

北のリ・ジョンヒョクの家も、兄の事故死後、ジョンヒョクの母は夫の「総政治局長」の権威に疑いの目を向けている。
ジョンヒョク兄の死によって、ピアニストだったジョンヒョクが軍人になった。
ジョンヒョク自身の決意のもと、兄の死の真相を探るという目的もあったのだけど、母からすると夫の息子への「圧力」と感じていたのだと思います。

「自分の地位が脅かされる」というジョンヒョクへの発言に「我が子の心配をしないのか!」と鋭い意見を投げかけます。
ダンとの婚約にしても、結婚にしても、ジョンヒョクの心が動かないのを感じていて、戸惑いがありました。

ダンの母は事業家として成功していて、父親不在の痛手は全くない。
ダン母の弟は地位が高いものの、姉の迫力には全く勝てず、ダンにもダン母にも権威をかざすことはしない。(この「パラサイト」コンビの姉弟のやりとりは、漫才を観ているようで、全編通して傑作でした)

そう、ドラマ全般を通して、父親・男の「権威」を否定していた気がします。

北の村のアジュンマ達も、全くもって「夫」には期待をせず、ことあるたびに、ジョンヒョクファンクラブ会員のようなテイで、楽しそうでした。

そして何より、よかったなあ~と思ったのは、セリの義母とセリの和解。
二人の確執が解消されてゆくプロセスはドラマのもう一つの「テーマ」でもあったと思います。

キャスティングも良かった。
セリの義母を演じたパン・ウンジンさんは、他のドラマでよく見る人ではなく、すごく新鮮でした。

セリの生還を信じ、撃たれたセリの身体を案じ、誰からも紹介されなくても、ジョンヒョクがセリにとって大切な人であることを見抜いた、「眼力」
なかなかの人でもあると思います。

この「愛の不時着」のもう一つの特徴は、女性の敵は女性、という描き方をしなかったことです。
セリとダンも最終的には協力関係になったし(本人たちの自覚はなくても)、何よりダンオンマは「娘の結婚」に対する執着を捨てる、その描き方がまた秀逸でした。
自分の恋愛へシフトするダンオンマの切り替え方。

セリの義母と、ジョンヒョクのオムニ、ダンオンマ、3人とも素敵な女優さんだったと思います。

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