阿部寛 ~褒められることの大切さを知る~


Yahoo!で阿部寛のインタビューを読みました。
https://news.yahoo.co.jp/feature/1065

タイトルは

「一度も褒められたことがなかった」俳優・阿部寛の人生を変えた一行の劇評

なかなか面白いインタビューでした。
そしてエンターテイメントの世界、芸能界という世界の厳しさを垣間見た、そんな気もします。

私が阿部ちゃんの存在をなるほど、と感心したのはかなりの遅まきで、「チーム・バチスタの栄光」(2008年)です。
映画館でみたのですが、役人根性のいやらしさを極限まで追求した厚労省の技官を演じていて「すごい!」と思ったのが彼への再認識でした。

テレビで中村トオルが演じているのをチラッと見たのですが、阿部寛の作り上げた「白鳥」からは程遠く、「あれっ?中村トオルってこんなだっけ?」という感想を抱きました。
映画というスクリーンの大きさもあったのでしょうけど、阿部寛の圧倒的存在感、たたずまいすら面白かったことを思い出したのです。

そんな彼も、デビューが恵まれすぎての「挫折」を味わったそうです。

デビュー映画「ハイカラさんが通る」でナンノちゃんこと南野陽子との共演で話題になっても、同じような役が続き、アッという間に「あの人は今?」状態に。
率直なことばで語っています。

「仕事が減ることで過去の人になってしまうという不安感や経済的問題もあって、これはなんとかしなくてはと。ただ、役者以外の仕事はしたくないと思ったんです。役者一本にこだわりたかった」

Wikipediaによると、「パチンコで生計を立てていた」というような記述もあり、かなり切羽詰まっていたのでしょう。
つかこうへの「熱海殺人事件モンテカルロ・イリュージョン」の舞台で役者を開眼した、というのは阿部ちゃんが結構あちこちで語っていて知っていたのですが、その後Vシネマで役者修行をさせてもらった、ということは初耳でした。

つかこうへいの稽古はそうとうにハードで、蜷川幸雄にも共通した「役者の身ぐるみをはがし、内面をむき出しにする」ようなプロセスを経るのだろうと思います。
もちろん、技術的にも演技力の向上という結果も得るのでしょうけど、何より「自分に対する自信」がつくのだと思うのです。
阿部ちゃんも言っています。

「もう、怖いものがなくなった」

自身の持つ力で、観客を圧倒すること、その「マジック」にハマり、演じることの「快感」を得、「何でもやってみよう!」という気力に満ち溢れたのだと思います。

そして、阿部ちゃんは、ある週刊誌の誉め言葉に感動する。

「大ウケして嘘だろうって思いました。ある週刊誌が『この舞台に出ている阿部寛を評価しないわけにはいかない』と書いてくれて、ものすごくうれしかった。それまで一度も褒められたことがなかったですから。あの一行が僕の人生を変えてくれたんです」

週刊誌にもこんな「役立つこと」があるんだ、とそこにもちょっと驚きましたが、いわずとしれた人のモチベーションを上げることに関しては一番の方法、「ホメる」が阿部寛でさえも効果があったのです。

このインタビューからある「法則」を導き出すとすれば、
①人は必ず浮き沈みがあるが、自分の気持ちがしっかりしていればある程度の方向性が定まる。
②何かをやり続けるとやがて見えてくるものがある。
③(必ずではないが)努力は報われる。

そして

「俳優として成功したという感覚はない」

という、おごらない人が次の仕事を誠実にこなす人なのではないか、と思うのです。

「人を演じるということは、自分にそれだけのものが備わっているのかどうかを、問われているようにも思えます。普段からどう生きているのかと」

深いです。